(2)
「それにしても意外ね。むっちゃんって、こういう暑苦しいタイプって苦手なんだと思ってた」
ものかの言葉に田中さんは「ははっ」と軽く笑った。
「もっと暑っ苦しいのと四六時中一緒にいたよ、中学のときは」
「ああ、美砂?」
「これより暑苦しいの?ご愁傷様ね」
「ひっどいなぁ。”これ”扱い?」
「あぁ、ごめんなさいね。わたし、愛想とかお世辞とか出来ない人間なの」
ものかはふわりと微笑んでそう言った。
見方によっては相当鼻持ちならない高飛車な女だけど、その言葉を納得させるだけの自信とオーラがそこにはあった。いっそ清々しいほどだ。
「それにしても、本当に美人ね」
ものかは頬杖をついて俺の顔をまじまじと見つめた。
「私と並ぶほどの美人がこの学校に、しかも同じ学年にいたとは知らなかったわ」
「いやいや、それはこっちの台詞だよ」
「無駄な謙遜しないとこがいいわね」
ものかは面白そうに目を細めた。
「この子、モテてたでしょ?」
突然話をふられた田中さんは一瞬きょとんとした顔をしたけれど、すぐに「あぁ」と言ってこくんとうなずいた。
「モテてたよー。ちょっと異常なくらい」
「やっぱりねぇ。今はいないの?」
「いないよ」
即答すると意外そうな顔をされた。
なぜか田中さんまで同じ顔をしている。
「……え、じゃぁ、去年の秋くらいからずっといないの?」
「うん」
「どうして作らないの?もう受験は終わったんだからいいんじゃないの?」
俺は中3の学祭後に前の彼女と別れて以来、誰とも付き合っていない。
もちろん、その後も月一、最後の方は毎日のように告白されていたけど全部断った。
受験が終わるまでは受験を理由に。
受験が終わってからは中学時代に未練を残したくないという理由で。
田中さんは誰か(おそらく美砂)からそのことを聞いていたんだろう。
「いや、なんか中学時代で経験値も大分上がったことだし、そろそろ本気でスキな子に集中しようかな〜と思って」
「そんな子いたの!?」
田中さんは細い目を大きく見開いて、ますます意外そうな顔をした。
まっすぐ反応を返してくる田中さんが面白くて可愛くて、俺は思わずにやっと微笑んだ。
「やだなー。そんなのもちろん、田中さんに決まってるしょ」
俺の言葉に田中さんは一気に眉をひそめるとムっとした表情で口をとがらせた。
「もう!またそうやってからかう!本気にして損した!」
……ちょっと調子に乗りすぎたみたいだ。
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