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(3)


「ものかはどうなの?彼氏」

 俺はパンをほおばりながらものかに話を振った。
 ものかは一瞬大きく眉をひそめたけれど、すぐにツンとした表情を作ってみせた。

「いないわ」

 意外だ。絶対いると思った。

「それは……”わたしの隣に並んでも見劣りしないような美貌の持ち主じゃなければお呼びじゃないわ!”とかそういう考えのもとに?」

 俺の言葉に、ものかはますます表情を険しくした。

「そんなわけないでしょ!わたしと並ぶ美貌の持ち主なんて芸能界くらいにしかいないわよ!」

 ……すごい、自信。いや、もっともだけど。説得力あるけど、正直すぎる。
 て言うか、否定するポイントはそこなのかよ。
 思わず引きつりそうな俺の顔を見て、田中さんが困ったように苦笑した。

「ものかはね、一途なんだよ」
「一途?」
「一人の人に片思い歴10年らしいです。ここまでくると、恋というより意地なんじゃないかとわたしは思いますが」
「……リリィ〜?」

 ものかの刺すような睨みもものともせず、リリィは真面目な顔でぼそりとつぶやいた。

「じゃなければ刷り込みです」
「恋でも意地でも刷り込みでもなんでもいいわよ!わたしはアイツが好きなの!」
「別にその気持ちまで否定はしてませんよ。理解はしてませんが」
「リリィ!!」

 うーん。なんかいいコンビだな、この2人。動と静。赤と白。

「まぁまぁ……でも、ものかがそんなに惚れ込むなんて、よっぽどいい男なんだな」

 軽い気持ちで言った発言に、怒り心頭のものか、静かに突っ込むリリィ、笑顔で傍観する田中さん、の3人が同時に固まった。
 何この反応。

「……いい男……かどうかは……。いい子だとは思わなくも、ないよ」と田中さん。
「……人の趣味は人それぞれですから」とリリィ。
「……いい男ではないわ」とものか。

 ていうか、ものか!お前は肯定しろよ!好きな男だろ。

「一言で言うなら”バカ”よ」
「”小猿”でもいいんじゃないですか?」
「2人とも……せめて”軽薄”くらいにしてあげなよ」

 おぉ!田中さん、全然フォローになってねぇ!
 この言われっぷり、逆にものすごく興味がわくんだけど。見てみてえ。

「軽さで言うなら、神くんといい勝負かな」

 って!そうだった。田中さんの中の俺の評価ってそんなレベルなんだった。
 聞き捨てならない!いい男かと問われて、3人が3人返答に困るような男と同レベルかよ。バカな小猿と一緒って、すげぇショック。

 ショックで言葉もない俺に追い打ちをかけるように、ものかが少し軽蔑したような視線を俺に投げかけた。

「ふーん。見た目通り軽いんだ、神ちゃんって」
「いや、見た目が軽いのは認めるけど……」
「軽い軽い。さっきのわたしへの軽口でも分かるでしょ?中学時代はとっかえひっかえすごかったんだから」
「いやいやいや、待って田中さん!美砂の話を元に言ってるんだとしたら、誤解だから!美砂が言うほどにはとっかえひっかえしてないから!」
「……でも、中学3年間で10人以上はいるでしょう?」
「……あ〜……はい」

 田中さんは、「そういうのを”とっかえひっかえ”って言うんだよ」と言うと呆れたように溜息をついた。
 俺の対田中さん『神蓮一郎イメージアップ作戦』(たった今命名)はあえなく撃沈したようだ。俺は無言でパンの最後のかけらを口に放り込んだ。

「さて、じゃあ行きますか」
 俺がパンを飲み込むのを見届けると、田中さんはお弁当を包みにくるんできゅっと結んだ。
「行くってどこに?」
「どこって……応援団のメンバーんとこだよ。そのために来たんでしょ?まさか本気でわたしに会いに来たとか言わないでよ」
 ああ……そう言えば、そうだった。
 田中さんに会ってテンションが上がってしまい、すっかり忘れていた。



 
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