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(2)



それから30分後、早めに夕飯でも食おうかと思って冷蔵庫を開けたタイミングで、再び携帯が鳴りだした。今度は「那須美砂」の文字が表示されていた。俺はうんざりした気持ちで通話ボタンを押した。
「なんだよ」
『それはこっちの台詞なんですけどー』
物真似は諦めたようで、いつもの美砂のハスキーヴォイスが聞こえてきた。
かなり不機嫌そうなのが腑に落ちない。完全に逆恨みじゃねえか。
『さっき、つくよんから電話あった』
「……あ?」

『神、つくよんにあたしが原田にメール送ったことバラしたでしょ!あと神にアドレス横流ししたことも!すっごい怒られたんですけど』

……え、え?ちょっと待て!
じんわりと脂汗がにじんできた。

『珍しくつくよんからメールと電話が来た〜と思って喜んでたのにさぁ、超ご立腹。すっごい怖い。あれだね、普段怒らない人ってのは、たまにキレるとマジで怖いね。つくよんの場合、怒鳴ってるうちは大丈夫なんだよ。あたしのマシンガン・トークで乗り切れるから。今日みたいに静かに怒りをつのらせた声だされちゃうと、もう背筋が凍るって言うか。
「美砂、怒らないから言って。わたしに隠れて何かしたでしょ」
とか言っちゃって、もうすでに怒ってんじゃーん。”何か”なんて心当たりありすぎて、つくよんが把握してなかった悪事まで全部暴露しちゃったしょ。もう全部神のせいだからね!だいたいさあ』
「ま、まてまて、ちょ、確認させろ!」
俺は本気でテンパる気持ちをひたすら抑えて、冷蔵庫の前に正座して美砂の途切れない声に割り込んだ。

「……お前、さっき俺に電話したりとか……」

『は?してないよ』
「う、そだろ?おいおいからかうなよなー。あれだろ、田中さんの携帯でこっそり田中さんになりすまして電話してきただろ!あれはお前だよな」
『だーかーらー。してないっての!今日はつくよん部活あったから会ってないよ。電話をしたのはつくよんでしょ』
「……!」

絶句した。とにかく絶句した。
美砂の言葉を聞いていてもしやと思っていたが、頭が真っ白になった。

だから、もういいって言ってんだよ。バレてるから。マジ死ねよ

俺がさっきの電話で言った言葉が頭の中でリフレインされた。




「う〜〜〜わーーーー。マジかーーーーーーーーーーーーーーーーー!
ちょ、どうすんだよ、俺お前だと思ってすげえ暴言を!」
『あ〜〜あ、しーらない』
「しーらない、じゃねえよ!だって、なんで、田中さん、俺のアドレス知らないはずじゃ」
『あ、それあたしが教えた』
「お前か!!」
『そ、なんか神に聞きたいことがあるから番号教えてってメールが5時頃あってさ。
何、ダメだったの?別につくよんはイタ電かけたり、神のこと恨んでたり狙ってたりする子に番号売ったりとかしないよ?』
「当たり前だ!てかなんだその具体的な喩え!お前まさか、俺のアドレス悪用してんじゃねえだろうな!」
『えーー?してないよ。  まだ』
「まだ、じゃねえよ!」
俺は脱力して床に倒れ込んだ。

「マジかよ〜〜〜。おいーーーー……」



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