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《出演者による独り言という名のプロローグ》

4人目:高崎正午の恋人


「しょうちゃん」

聞き慣れた声にふりかえると、真彩がドアによりかかって立っていた。
男の部屋に、夜に一人でやってきて、自分からドアを閉めるとは、いくら恋人とはいえ
あまりにも警戒心がなさすぎる。
……まあ、1階に両親と兄夫婦がいる状況で何をするってわけではないけれど。

「何?」

身体を机に戻して背中越しにたずねると、真彩は音をたてずに近づいて、背後から椅子ごしに抱きついてきた。

「聞いちゃった」
「は?」

首だけまわしてみると、真彩はわざとらしい怒り顔でにらんでくる。

「アケ兄に聞いたよ。なんで言ってくれなかったの?」
「あーー、……いや、黙ってたというか、わざわざ言うことでもないかと思って」

俺が気まずげに言葉をにごすと真彩はくすくすと笑い出す。

「どうりでね〜。しょうってば最近妙なのとつるんでるなと思ってたんだ」
「妙なのって……」
「でも、どういう風の吹き回し?前は関わりたくないって言ってたのに」
「……いや、まあ、なんというか、押し切られて」
「……アケ兄のため?」
「……ちげえよ」
「素直じゃないなー」
「うるさいなあ」
「ふふ」

息が首筋にあたってくすぐったい。
にらみつけると、真彩は面白そうに俺をじっと見つめかえす。

「ねえ、協力してあげようか」
「協力?」
「うん、あのね」

真彩が耳元でささやいた言葉に俺は一瞬考え込み、その提案がものすごく重要なものだと思い至る。
真彩を見やると、「どう?」とでもいうように目を輝かせている。
その様子が、ボールをくわえてご主人様にほめてもらおうとしっぽをふっている犬のようで思わず噴き出してしまった。

「いいんじゃない?」
「ほんと!?」

嬉しそうな真彩の頭を、俺は「いい子いい子」と撫でてやる。

「ただし、内密に頼む。あいつら、そのことには頭が回ってないと思うから、あとで驚かせてやろう」
「まかせてちょうだいな。あたし、これでも結構顔広いからね」


出会って5年、つきあって2年。
阿吽の呼吸の俺たち。
これからも、退屈しない日が続きそうだ。


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