第二幕 「バルコニー」
舞台ライト消灯
ナレーション
「些細な勘違いから、婚約することになってしまったロミオとジュリエット。
キャピュレット家に一晩泊まることになったロミオは、眠ることが出来ず、月の照る中庭を散歩しておりました」
ロミオに照明
ロミオ
「ああ、なんてことだ。いずれ結婚しなくてはならないことは分かっていた。
だけど、まさかこんなに早く……。しかも相手はあのジュリエット!ティボルトが愛してやまないジュリエット!」
ジュリエット(声のみ)
「ああ、ロミオ」
ロミオ
「この声は、ジュリエット?彼女も起きていたのか?」
舞台中央、茂みの方を歩いていくロミオ
舞台下手バルコニー上のジュリエットに照明
ジュリエット
「ああ、ロミオ……。どうして、どうしてアイツがロミオなの!」
「侍女たちはいつも言っていたわ。ロミオ様は、背が高くて瞳が鋭く、でもどこか優しげな雰囲気のある大変な美男子だと……。だから、あの方――青い上着を召したあのお方こそ、ロミオ様だと……」
ロミオ
(客席に向かって)
「青い上着……?マキューシオのことか?彼女はマキューシオのことが?」
ジュリエット
「それなのに、あの始終むすっとしていた無愛想な男がロミオだなんて!
ええ、たしかに背は高いわ。目も鋭いし、格好いいと認めてもいいわ。
でも、わたしの思い描いていたロミオ様はあの方だったのよ。
優しく微笑んで、わたしに手を貸してくださったあのお方……。
なぜ、あの方がロミオ様ではないの?
なんでアイツがロミオなの!
わたくしのことを、あんなに冷たい目で、親の敵でも見るかのように睨み付けてくるあの男!あんな人と結婚なんてあんまりだわ。
わたしはなんて不幸なの」
ロミオ
「不幸?本当の不幸など知らないくせに、よくもぬけぬけと!
ティバルトはあんな女のどこがいいと言うんだ?」
ジュリエット
「……誰?誰かいるの?」
ジュリエットの前に姿を現すロミオ
ジュリエット
「あなたは……!いつからそこに?まさかずっと聞いていたの?
なんて無礼な人なの、盗み聞きするなんて!」
ロミオ
「申し訳ありませんでした。盗み聞きするつもりはなかったのですが、あんまり大きな声でしたので。わたしだって、本当は聞きたくなかったのですよ、こんな耳障りな声」
ジュリエット
「まあ!それは失礼いたしました。でも、そんなに気に障るのでしたら、さっさとお発ち去りになったらよろしいでしょう?わたしくに何かご用でも?」
ロミオ
「まさか、ありませんよ用なんて。陰でこそこそと、愉しそうに人の悪口を大声でわめき散らす人間なんかに」
ジュリエット
「……でしたら、さっさとどこかへ行ってくださらないかしら。わたくしも、人のことを馬鹿にして見下した目で睨んでくる人間なんかと同じ空気を吸いたくありません」
にらみ合うロミオとジュリエット
ロミオ
「そうですね。確かにここは空気が悪い。愉しい時間を邪魔してしまって申し訳ありませんでした。もう二度とここへは来ませんので安心して独り言を楽しんでください」
立ち去るロミオ
ロミオの背中を睨み付けるジュリエット
ジュリエット
「大嫌い……。あなたなんか大っキライよ」
乳母(声のみ)
「お嬢様?そちらに誰かいらっしゃるのですか?」
ジュリエット
「なんでもないわ。ちょっとうるさい虫がいただけよ」
ジュリエット退場
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