[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
【1章 ジュリエットのため息】 放課後、わたしは部活をさぼった。
わたしは、一部の後輩たちから「部活のために登校してそうな人」と言われるほど部活大好き人間だ。実際、この2年間一度も部活を休んだことがない。風邪を引いた時も、顧問の先生に「帰れ」と言われても帰らなかった。 そんなわたしが、まさか「部活を休みたい」と思う日が来るなんて、一体誰が想像しただろう。 コンクール前で悪いと思ったけど、今日のわたしには部活に出る元気は残っていなかった。 わたしは、副部長と言うこともあって、部活ではクラスにいる時の3倍ハイテンションにしている。少しでも気落ちしていると後輩たちが心配するから暗い顔なんて出来ないのだ。 いつもなら多少落ち込んでいても気力でなんとかするけど、今日は「頼れる月夜先輩」を演じられる自信がなかった。 「具合が悪いから」と同じパートの後輩に告げると、案の定、彼女はひどく心配した顔で、「お大事に」と言ってくれた。 良心がちくりと痛んだ。 2年校舎にある音楽室を出て、3年校舎へ向かう途中、夏の風に乗せて、あちこちからいろんな音が聞こえてきた。 吹奏楽部の練習する音はもちろん、体育館の方からはバスケ部やバレー部のボールが床を叩く音や、バッシュのこすれる音、かけ声、校庭の方からはサッカー部の笛の音や野球部のバットがボールを打つ金属音。 いままであんまり気にしたことはなかったけど、いろんな音が「学校」という一つの空間で同時に響いているんだ。 ふと、そんな当たり前のことに気付かされた。 音に敏感であるはずの吹奏楽部にいながら、普段は耳慣れしすぎていて、案外、他の音にはひどく鈍感になっているのかもしれない。 「あははは」 ふいに聞こえてきた男の子の笑い声に、わたしは思わず身を縮ませた。 立ち止まったわたしの横を、1年生らしき男子2人組が通り過ぎていった。 ……また笑い声に怯える日が来るなんて。 わたしは自嘲気味にちょっと笑った。 音楽室で誰かが吹いている軽快なマーチが、ひどく悲しい調べのように聞こえた。 * 教室に入ると、金村さんが自分の席に座ってじっと黒板を凝視していた。 |