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 【1章 ジュリエットのため息】


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 わたしたちの中学は、秋に学校祭がある。
 学年ごとに出し物が決められていて、1年生は学校装飾、2年生はクラス展示、そしてわたしたち3年生は学級劇だ。
 3年の劇には毎年テーマがあって、それにそった演目を演じなくていけない。

 今年のテーマは「悲劇」。
 賞は優賞一つしかない。

 昔は金・銀・銅があったらしいけど、少子化の影響で今は一学年4クラスしかないから、3つも賞を出すと貰えなかったクラスがかわいそうだ、と言うことで、数年前に賞の数が見直された。
 一気に1つに減らしてしまうとはなんとも乱暴な話だけど、それ以来、学祭にかける3年生の熱意は格段に上がったとか。

 そんな訳で、栄誉ある優賞目指して、どのクラスも1学期の期末テスト明けには準備に入る。
 わたしたちのクラスも例外ではない。
 6時間目のHRの時間を使って、演目決めをしようと言うことになったのだ。


 うちのクラスの出し物はシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』にあっさり決まった。
 わたしとしては、戦争物の方が審査員受けもいいし、メッセージ性もあっていいと思ったんだけど、派手グループの女子の皆さんの根回しで惨敗だった。
 時間が余ったから、主役2人も決めてしまおうということになったのだけど、これが思いもよらず難航した。
 自分たちが『ロミオとジュリエット』をやりたいと言ったからには、発案者が立候補すればいいものを、清楚可憐なジュリエットに自ら立候補するのはプライドが邪魔するのか、誰もやりたがらない。ロミオにいたっては「恥ずかしい」の一言で見苦しい押し付け合いに発展しそうな雰囲気だった。
 結局、くじ引きで決めると言う、とんでもなく投げやりな方法をとることになったのだ。


 なんとなく、嫌な予感はしていた。
 でもこの時はまだ、心の底では、「まさか」と思っていた。
 確率の問題だ。わたしとアイツが「当たり」を引く確率は極めて低いはずだった。

 大丈夫、大丈夫、と自分に言い聞かせながら静かに順番を待っていると、先にくじを引いていた男子が、一人を囲んで大騒ぎし出した。
 騒ぎの真ん中にいたのが原田陽介。

「ロミオは陽介に決定」

 誰かが叫んだ。
 女子はすでに半分以上がくじを引き終えていたけど、まだジュリエットを引き当てた子はいない。


 そう、嫌な予感はしていたのだ。
 わたしは、ここぞというの時のくじ運が恐ろしく悪い。
 でも、まさかそんな偶然、そう簡単に起こるはずない、そう信じたかった。

 わたしの番が回ってきた。
 胸が、破裂するんじゃないかと思うくらい、強く、速く脈打っている。
 残り5枚ほどしか残っていない紙をよくかき回して、1枚掴んだ。
 嫌な予感はどんどん大きくなる。
 見たくない。けど、見ない訳にはいかない。
 ああ、お願い。
 神様なんか信じてないくせにとりあえず思いつく限りの宗教の神に祈ってそっと紙を開いた。

『おめでとう、あなたが“ジュリエット”です』 

 わたしは、目に飛び込んだ文字をただ茫然と見つめることしか出来なかった。