[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
あれから2年――。 ただ穏やかなだけの毎日ではなかったけど、あっという間の2年だった。 まず、婚姻届を出しに行った足で、あれよあれよと先輩――いえ、御門さんのマンションに引っ越しさせられた。 大学もお腹が目立ってくるまで普通に通って、夏休み明けから産休のつもりで休学した。つかの間の2人だけの新婚生活はとっても穏やかで幸せだった。でも、臨月近くになって突然早産しかけて病院に運び込まれた。その日は日曜日だったけど、御門さんは大事な発表が近いとかでたまたま不在だった。 病室に駆け込んできた御門さんは、わたし以上に真っ青な顔をしていた。 「俺より先に死ぬことは許さない。お前がいなくなったら、俺は世界を壊してしまうかもしれない。世界平和を願うなら、何が何でも俺より1秒でもいいから長生きしろ」 そんな「あなたはどこの異世界の魔王ですか?」という台詞を吐いて、ずっとわたしの手を握っていてくれた。 ……実は、別に命にかかわるほど危険な状態ではなかったらしいんだけど、御門さんがあんまり心配するものだから本気で死ぬんじゃないかと思って、いっぱいいっぱい泣いてしまった。 後で聞いた話、御門さんは看護婦さんに「わざわざ母親を動揺させるようなことを言うなんて何を考えているんですか、非常識です!」と怒られていたらしい。 そして、わたしの身体を心配した御門さんは、勝手にマンションを引き払ってわたしの実家に引っ越して、両親からの全面バックアップ体制を整えていた。 そんな周囲の心配をよそに、お腹の子どもは元気な産声を上げて無事に生まれてきてくれた。 + はしゃぎ疲れてわたしの膝にへばりついて眠っている、小さな可愛い2人の男の子の黒髪を、わたしは優しくなでた。 2人――そう、あの時宿った小さな命は、2人になってわたしのお腹から出てきた。 もともと子どもは大好きだったけれど、まさか自分の子どもというものがこんなに可愛いとは、子育てがこんなに楽しいとは想像していた以上だった。 御門さんは女の子が欲しかったらしくて、生まれてしばらくするとぶつぶつ文句を言い出した。そしてそれは今も続いている。曰く、「お前ばかり楽しんでズルい!」らしい。子どもが駄々をこねているようで、おかしくてついつい笑ってしまう。 でも、御門さんには悪いけど、本当にすっごくすっごく楽しいのだから仕方がない。 だって、わたしの可愛い双子ちゃんは、もうどこからどう見ても、何から何まで御門さんにそーっくりなんだもの! 生まれたばかりのくしゃくしゃの顔を見た瞬間ぴんときたけれど、大きくなるにつれて日に日にどんどんそっくりになっていく。 わたしとしては、御門さんを自分でもう一度育て直しているみたいで、いちいちいちいち感動してしまう。 愛おしさから目を細めて息子たちを見つめていると、がちゃりと音がしてゆっくりとドアが開いた。 顔を上げると御門さんがネクタイを緩めながら入ってきた。 「おかえりなさい。お疲れ様でした」 「……ただいま」 御門さんは身をかがめてわたしの唇にそっと触れるだけのキスをする。 結婚してから毎日続いている習慣。 わたしはそれだけで身体が舞い上がるような幸せな気持ちになって、ふわっと微笑んだ。 「……チビどもは、まだお前にへばりついてるのか」 「えぇ。今日は一日中。よっぽど嬉しかったんでしょう」 「意味もよく分かってないだろうに。子どもは脳天気でいいな」 苦笑する御門さんの様子がおかしくて、わたしは「くす」と声を漏らした。 「昨日、御門さんがあんなに大騒ぎするから。普段寡黙なお父さんが笑顔全開で大喜びしていれば、子どもたちだって”何かすごくいいものなんだ!”と思っちゃいますよ」 御門さんは少しムっとした顔をした。 「……めでたいことなんだ。素直に喜んで何が悪い」 「悪いなんて一言も言ってませんよ。わたしだって嬉しいんですから」 そう言って、わたしは自分のお腹をそっとなでた。 御門さんはわたしの横に片膝をつくと、お腹にあてたわたしの手に自分の手を重ね合わせた。 「今度こそ、女になって生まれてこいよ。百歩譲って男だとしても、今度は絶対、狛子に似ろ。俺の分身はこいつらだけで十分だ」 大真面目な顔でお腹に語りかける御門さんに、わたしはもう一度噴き出した。 「そんなこと言ってると、へそを曲げて、またあなた似の男の子になっちゃうかもしれませんよ」 「それならいいさ。お前似の女の子が生まれるまで、何度でも挑戦するから。幸い俺もお前もまだまだ若いんだからな」 「……さすがに5人くらいまでしか無理ですよ?」 御門さんのことだから、本気で10人くらい産まされそうだと思って釘を刺してみた。 でも、御門さんはそれには答えず双子ちゃんたちの頭を大きな手で順番になでた。 「……にしても、よく寝てるな。こら、狛子の膝はお前ら専用の枕じゃないんだぞ」 「移動させようと思ったんですけど、一人を動かすともう一人が起きちゃいそうで……」 「ふむ」 御門さんは着ていた背広をさっと脱いでハンガーにかけると、片手でひょい、ひょいと2人とも抱き上げた。 やっぱり父親は頼りになるわ……、そう思ってほっとした瞬間。 双子ちゃんの目が同時にかっと見開いた。 御門さんの腕の中でちょうどわたしの目線と同じ位置にいた双子ちゃんは、わたしの姿を見つけると 「こあこー」 「こあこー」 と言って、わたしに向かって手を伸ばしてきた。 か、可愛い………! 可愛い可愛い可愛すぎる! 「永くん!久くん!」 たまらず息子の名前を呼んで抱きつこうと手を伸ばしたら、御門さんはさっと身を翻して後ろを向いてしまった。 「え?え?」 「あーー、こあこ!こあこんとこいく!」 「こあこは!こあこどこ?」 「ちょ、御門さん?」 回り込んで顔をのぞき込んでみると、御門さんはすっごく不機嫌そうな顔で息子たちを睨んでいた。 「コマ子じゃない!”お母さん”だろ!」 「やー。こあこだもん」 「こあこだもん」 「こあこー、だっこー」 「あー、ぼくも!ぼくもこあこのだっこがいー!」 「うるさい!!ガキはさっさと寝ろ!」 「やーだぁー。こあことあそぶー」 「こあことあそぶのー」 「うるさいうるさい!お前ら昼間さんざん狛子を独占してきたんだろ!夜くらい俺に譲れ!」 「なんでー」 「やーだー」 「こあこはぼくんのだもん」 「ちがうもん、ぼくんのだもん」 「何を言ってるんだ!狛子は俺のだ!」 「こあこはぼくのことすきっていったもん!」 「ぼくのことだいすきっていったもん!」 「ほっぺにちゅーしてくれた!」 「おでこにちゅーしてくれた!」 「俺はほっぺもおでこも口も首も胸も腹も背中も全部してる!」 「あー、ずーるーい!こあこ、ぼくも!」 「ぼくもするー!」 「させるか、このマセガキ!!」 子ども達と一緒になって、同じレベルで口げんかをしている御門さん――。 わたしは堪えきれずに盛大に噴き出した。 「あー、こあこがわらったー」 「こあこわらったー」 きゃっきゃと喜ぶ双子ちゃんを苦い顔をして一瞥した御門さんは、ムッとした目でわたしを睨む。 「何を笑っているんだ」 「……ふふ。いいえ。仲が良くてうらやましいな~と思って」 「仲が良い?お前の目は節穴か?思いっきり険悪だろう!」 「いいえ、仲良しですよ。御門さんは敵意を持った人間には二言以上しゃべらせませんもん。 永くん久くんはいっぱいしゃべってます。しゃべらせている、ってことは相手を認めてる証拠です」 そう断言すると、御門さんはバツの悪そうな、居心地の悪そうな、そしてちょっとだけ照れくさそうな顔をすると「ふん」と鼻を鳴らして双子たちを抱えたままぶんと身体を振り回した。 突然の大回転に永くんも久くんも大はしゃぎしてきゃーきゃー声を上げている。 文句はいっぱい言うけれど、御門さんはとってもとってもいいパパなのだ。 + 皇帝陛下と、ちっちゃなナイト、そして遠からぬ未来にきっと生まれくるお人形さんのようなお姫様――。 愛しい人たちに囲まれて、わたくし「皇帝陛下の小間使い」刈谷狛子――改め佐倉狛子は、毎日がとっても楽しいです。 END |