【3章 ジュリエットの気持ち】
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「へえ……。にしても、よく考えたね。完全に逆手に取ったって感じ?」
皆子が面白そうにそう言った。
「あの調子で1年と2年の校舎も回ったらしいよ。宣伝効果抜群だよね」
「いまだに演目すら明らかにしない1組への挑戦状とみた!
『どうだ、お前らには真似できまい!』ってね」
りえちゃんはそう言って、わたしと美砂を順番に意味ありげに見つめた。
皆子の3組は映画やドラマで話題になった難病物、りえちゃんの4組は戦争物の名作「ひめゆりの塔」に決まったらしい。
うちのクラスの演目は、クラス全員の並々ならぬ努力によって、いまだに一切漏れていない。
2人はそれが面白くないようで、ことあるごとに探りだそうと絡んでくる。
皆子はじわりと美砂の方に身を寄せた。
「そろそろ教えてもいいじゃないの?秘密主義にもほどがあるでしょ」
「わたしたちの仲じゃない。誰にも言わないから、ねえ……」
じわりじわりとにじり寄る2人の視線を避け、美砂は「あははー」と笑った。
「ところで、つくよんはずっと外見てるけど、何か面白いものでもあったー?」
そう言って、美砂はわたしの方へ走ってきた。
「あ、逃げた」
「つくよんか美砂が主役なのは分かってるんだからね!」
2人も負けずに追いかける。
身の危険を感じたわたしはあわてて立ち上がろうとしたけど、わたしが動くよりも皆子たちの方が数段素早かった。わたしは窓と美砂にサンドイッチされた形になり、さらにその上から皆子とりえちゃんがのしかかってきた。
「ぐえ」とわたしが変な声を出しても、上の3人が力を抜く気配はない。
「ちょっ、重い……てか痛い痛い」
美砂のうなり声。
「どいて欲しかったら吐きなさーい」
「ほらほらー」
愉しそうな皆子とりえちゃんの声。
後ろからの圧迫にわたしはお腹の辺りからどんどん前のめりに身体が倒されていく。
「ちょっと、待って。ヤバイって、落ちるってば」
身体の半分が窓から乗り出て、頭はどんどん下に下がっていく。
ちょっと、冗談じゃなしにこのままでは落っこちるんだけど!
ただでさえ運動神経がさっぱりのわたし。
3階から落っこちたら、いくら植え込みがあるとは言っても、大けがじゃすまないかもしれない。いや、確実に病院、もしくはあの世行きだ。
なんだか嫌な未来予想図が頭をよぎったその時、突然押しつけられてた力が消えた。
「あれ」と思って身体を立て直すと、ちょうどわたしたちのいる窓の下あたりに2つの人影が見えた。
神くんと原田だった。
「いじめ現場発見」
神くんは「かかかっ」おかしな笑い方をして叫んだ。
「いじめじゃない。ふざけてるだけだもん。ね、月夜ちゃん」
りえちゃんが回り込んでわたしに同意を求めた。
「いじめでしょ!本気で落ちるかと思ったんだからね。今度日誌に『りえちゃんと皆子に殺されそうになりました』って書いてやる」
「なんでよお。もとはと言えば秘密主義なつくよんと美砂が悪いんじゃん」
言い争うわたしたちを見て、神くんはまた笑った。
「そんだけはっきり文句が言えればいじめじゃないな。ふざけて田中さん殺すなよ〜」
神くんはそう言い捨てると、そのまま原田と連れだってグランドの方へ歩いていった。
結局、原田は一瞬もわたしの方を見なかった。
「あの二人何しに来たんだろうね。今日、1組も2組も練習ないんでしょ」
皆子が首をひねった。
「部活の様子でも見に来たんじゃないの。2人ともサッカー部だし、一応」
わたしがそう言うと、美砂が笑って
「神は完全に幽霊だけどね」と先を続けた。
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