バレンタイン小話の続編です

ホワイトデー小話:「等価交換」事前交渉編


「ホワイトデー、どうする?」

いつもの自習室で稔が永遠子にそう聞いてきた。

「どう、とは?」
「いや、俺ら結局バレンタインにお互いにチョコレートあげちゃったし、またお返しもお菓子っても芸がないしょ?」
「そう、ですね」

永遠子としてはバレンタインのリベンジをしてもいいかな、と思っていたのだけれど、たしかに永遠子は甘いものは好きではないのでお菓子よりは別のものの方がありがたい。

「だからさ、お互いに相手のお願いを一つ聞く、ってのはどう?」

永遠子の机に両肘をついて、稔は楽しそうに目を細める。

「お、お願い……ですか?」

戸惑うような声を出した永遠子に、稔はふっと吹き出して永遠子の顔に手を伸ばす。
思わず身をすくめた永遠子をからかうように、稔は直前で手を横へすべらせ髪の毛をすっと手で梳いた。

「もちろん、この自習室で出来る範囲のお願い、ね」
「あ……」
「だから心配しなくても、変なお願いはしないよ」
「あ、はい……」

ほっとしたように漏れる小さな声に、稔は苦笑する。

――表情はなくても、こういうときは考えてることがだだ漏れなんだよな。

「たとえば」

稔はさらに身を乗り出し永遠子の耳元に口を寄せると甘い声でささやいた。

「――――」

それを聞いたとたん、永遠子の体が大きくびくんと動くとびしっと固まった。
ゆっくり横目で見ると首筋が真っ赤に染まっている。
稔は満足げに微笑むとそっと離れた。

「なんてお願いはしないから」

からかわれたことを悟った永遠子はさらに顔を真っ赤に上気させると、無言で稔の肩をこづいた。
稔は楽しそうに声を上げて笑った。

「ごめんごめん!」
「か、からかわないで下さい!」
「うーん、でもさ」

稔は困ったように微笑むと片肘をついて頬を乗せた。

「本当はそれが本音なんだからしょうがないじゃん」
「な!」
「そんなに驚く?」
「……いえ……」
「俺は聖人君主じゃなければおとぎ話の王子様でもないんだから年相応の願望くらいあるよ」
「分かってます……」

小さくなってしまった永遠子に、稔は

――ちょっといじめすぎたかな

と少しだけ反省して、安心させるように穏やかに微笑んで見せた。

「今すぐとは言わないけど、永遠子ちゃんの心の準備ができたら、いつか……ね?」

永遠子はふせた目をゆっくり上げるとそっと稔と目を合わせた。
そして、しばらく見つめ合った後、小さくこくりとうなずいた。



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