正月小話
「1月某日、市内某神社における初詣デートについての報告」

明けましておめでとう御座います。
みなさまご存じ、情報屋こと度会渉です。
いつもは三人称でお届けしております「蝋人形と王子様」ですが、新年スペシャルということでわたくし度会渉の一人称でお楽しみ頂きたいと思います。
ええ、決して作者が三人称で書くのが面倒くさかったとかそういう理由ではありませんよ!
せっかくの新年ですから、ちょっといつもと趣を変えてみようと思い立ってしまったというだけであって、決して決して手抜きをしたわけではありませんので!



それはさておき、俺は今、調査の真っ最中であります。
調査対象はどうやら地元神社にお参りに行くようです。
初詣というヤツですね!

初詣と言えば元旦!遅くとも三が日くらいがピークです。
僕も行きましたよ、もちろん!
”初”詣どころか三度詣、四度詣くらい!
誰とって?ははは、決まっているじゃないですか!

調査ですよ!

初詣ってのは人手は多いけど、その分知り合いと鉢合わせもしにくいんじゃないかという心理が働くのか意外と隠れカップルがお忍びで詣でたりしてるんですよ!
さすがに地元神社に堂々と現れるヤツらは少ないんで北海道神宮あたりがねらい目。いい情報が手に入りました(合掌)
彼女のいない俺としちゃ、この寒い中わざわざご苦労様と言いたくなったりもしたけど、若いカップル(特に男)にとっては初詣デートってのは結構おいしいイベントだったりするらしい。

まず第一に彼女の着物姿。
これはいいね。華やかだし、いつもとちょっと違った彼女に姿にくらっときたり。
さらに、着物ってのは結構歩きにくいものらしいね。
そうなると、思わずつまづきそうな彼女の手をさっととって「気を付けろよ。仕方ないな」とか何とか言ってちゃっかり手をつなげちゃったり、うまくいけば後ろから誰かにぶつかられてよろめいてきた彼女をそっと抱きしめちゃったり……奥手男子にはたまらないイベントですな!
そんな下心満載なヤツらの姿をここ数日の調査でずいぶん目にしたもんだ。

おっと、今日の調査対象くんが目的地についたようです。
ちなみに、みなさんが今これを読んでいるのは何月何日だかは知りませんが、
少なくとも俺の体内カレンダーでは本日は1月第2週の半ばです。
彼が、初詣にはいささか遅めな時期に神社にやってきたのにはいろいろと涙なしには語れない事情があったようです。

おっ、調査対象が手を挙げました。誰かと待ち合わせをしているようです!
誰か、だなんて愚問でしたね、もちろん彼女です。
彼女は……残念!着物じゃありません!
黒いコートの下からのぞくカラータイツの足はすらっとしていて眼福ではあるけど、これは調査対象ちょっとがっかりか?
と思いきや、もうこっちが恥ずかしくなるようなとろけるような笑みで彼女のかぶるニット帽をいじっています!

ああ、何か言ってる!
何を言ってるんだ!
この調査対象、存外警戒心が強くて半径10m以内に近寄ると強烈な威嚇攻撃が始まるからこれ以上の接近は危険です。
しかし、だてに情報屋を名乗ってませんよ!
こんなこともあろうかと、最近通信教育で「読唇術」を習い始めたんです!
まだ始めたばっかりだからほとんど分からないけど、簡単な言葉くらいならきっと…

と目をこらしている間に、調査対象、なんとも自然にさりげない動きで彼女の手を取ったーーー!
な、なんてうらやましい!
世の奥手男子がこの瞬間を手に入れるために、何度となく脳内シュミレーションを繰り返しては惨敗するという苦い経験を積んでいるというのに、この男、なんのためらいもなくさらっとやってのけやがった!
ああ、でもスマートすぎて憎めない!!

そうこうしているうちに、2人が賽銭箱の前にたどりついたようです。
なんでしょう、彼女が調査対象を何か言いたげな様子で見上げています。
えーと、ああ、手!手を放さないと財布が取り出せないから放せと言っているようです。
調査対象、しぶしぶといった様子で手を放します。
そしてそれぞれ財布からお金を取り出し、投げて、手を合わせてお願い、と。
と思ったら、おや?彼女の方はずいぶん短い!もう終わり?
調査対象はまだお願いしています。まあ…気持ちは分かる。

やっと顔を上げた調査対象、彼女に何やら話しかけています。
聞こえないし、読唇術もかなわないけど、このシチュエーションなら間違いなくあれでしょう!


「何をお願いしたの?」
「やだ…恥ずかしくて言えません」
「俺と今年も一緒にいられますように、とかじゃないの?」
「えっ?///」
「真っ赤……。図星?」
「もう意地悪!そっちこそどうなんですか?」
「それはもちろん…」


 君と一緒だよ


とか何とか言ってんだろ、どうせ!こっのお、バカップルどもめ〜〜〜!

あ、あれ?なんだ?
調査対象がもう一度財布を取り出して、賽銭箱に小銭を投げ入れお願いをしなおした?
何してんだ?彼女のあっけにとられてるぞ(多分)
願い終わったと思ったら今度は……え?彼女の手をさっと掴むと何かを置いた?
はぁ?今度は彼女に向かっておがんでるぞ!?
何これ、なんだよこの展開!
なにがどうなるとこうなるわけ?
表情からは分からないけど、彼女も相当焦ってるじゃん!
て、彼女も財布取り出したし。
あー……でも、なんだろ、もう小銭がなかったのかな。肩ががっくり落ちてる。

そうそう、念のため言っておくけど、俺、双眼鏡とかでのぞいてるわけじゃないからね。
調査の基本は目立たない!双眼鏡なんか持ち歩いてたら即行捕まるから。
俺、視力は両目とも2.0だから裸眼で十分見えるわけ。

だから、ばっちり見えてしまった。
調査対象が愛おしげに、でも何か企んだ顔で微笑むのを。

ああそして、調査対象六原稔は凹んでいる彼女、佐倉永遠子を抱き寄せると、自然な動きであごをもちあげて極限まで顔を近づけると何かをそっと囁いた。
そしてそのまま………………




あほらしいので、これ以上の詳しい記述はしないでおく。

参拝客はお前ら2人だけじゃないんだぞ!このバカップル!



元旦〜1月半ばまで拍手お礼にしていた新春初詣デート短編。
本当は一人称の方が書きやすいんですけどね。
本編は一人の人称で書くのは無理があるんで最後まで三人称を貫きます。

にしても、ワタルは非常に使い勝手のよいキャラだと今回書いていて実感。
このパターンでいくらでも短編書けそうです。

この話の王子視点ver「王子様の願掛け」はこちら