【2章 ロミオの戸惑い】
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8月頭にあった登校日から、ちょうど1週間。キャストの練習は週に3回ある。
今日は新台本になってから4回目の練習だ。
「暑い……」
最近、口を開くと「暑い」しか言っていないような気がする。
でも、暑いもんは暑いんだから仕方ない。いくらでも言ってやる。
「暑い、暑い、暑い!」
次第に口調に怒りが混じってくる。
体が重い!
汗で前髪がはりつく!
なんでこんなくそ暑い中30分もかけてわざわざ学校へ行かなくちゃいけないんだ。
しかも、2時に集合なんてふざけている。
一日の中で一番暑い時間帯に歩かなくてはいけない身にもなってみろ。
ここ数日の暑さは異常だ。
3日前に東京からやって来た従兄が、「避暑に来たのに、連日、最高気温が東京よりも札幌の方が高い」、とぶつくさ文句を言っている。
5年くらい前までだったら、こんな暑い日は1年の間で3日あれば多い方だったけど、もう今日で1週間連続30度近い数字を記録し続けている。ガラにもなく「地球温暖化」を身近に感じてしまう。
「くそ、暑いんだよ」
怒りにまかせて鞄を振り回すと、ちょうどカイの腰の辺りにぶつかった。
「よ〜すけぇ!」
カイが恨めしそうに俺の方を見た。
「暑いのは俺のせいじゃないんだから、俺に八つ当たりするなよ」
小太りのこいつを見ていると余計に暑くなってくる。
ああ、いらいらする!
「うるせえ。お前のせいだ」
「なんで」
「こんな時間に学校へ行かなきゃいけないのも、夏が暑いのも、地球が丸いのも、全部お前のせいだ」
「なんでだよお」「陽介!」
カイの情けない声にかぶって陽気な声が聞こえた。
声の主はレン、2組の神蓮一郎だった。
校門の前で、腕をぶんぶんと振りまわしている。
あいつは夏だろうと、冬だろうと年中無休で元気だ。
俺は軽く手を挙げた。
レンはずぼんのポケットに両手をつっこみながら近寄ってきた。
すそをすねまでまくり上げ、足は素足にサンダル、まねはしたくないが涼しそうだ。(もちろん校則違反だが)
「よう、お前らも劇の練習?」
「2組もか?」
「おう、うちは午前中からやって今終わったとこ。1組覗いたら、人集まってたから、お前も来るかと思って待ってた」
俺はカイに向かって手を払った。『先に行け』の合図だ。
カイが去っていくのを見送ると、レンが俺の肩に腕をまわそうとしてきた。
俺とレンの身長差は15cmはあるから、俺は前のめりにつんのめる形になってしまう。
「で、お前のクラス何やんの?」
ただでさえ暑いのに、身体が密着しているから余計に熱を感じて背中に汗がにじむのが分かった。
俺はレンを振り払った。
「暑い、くっつくな」
「なあ、なあ、教えろよ」
レンはしつこくはりついてくる。
「そう簡単に教える訳ないだろ。
他のクラスのヤツらには漏らすなってクラス全員、口止めされてるんだよ」
「なんだよ、けち」
「はいはい」
俺は大股で歩き出した。
足の長さが違うから、レンは小走りで追いかけてくる。
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