クリスマス小話
おまけ「妄想と誤解のクリスマス」

12月25日。

今頃永遠子ちゃんは家族で楽しくすごしているんだろうか…

などと思いながら昼過ぎまでふて寝をしていた稔の携帯に着信があった。
もしやと思って相手も確かめずに通話ボタンを押したが、そこから流れてきた声は期待した人物のものではなかった。

『王子〜!メッリークリスマース!』
「なんだ……お前かよ」
『なんだなんだ眠そうな声して〜。昨夜はもしかしてお楽しみすぎて眠れなかったとか?うっらやましいなぁ♪』
「うるさいな、何の用だよ」
『いやぁ、昨日の首尾をお聞きしたいなぁと思いまして』
「なんだよ首尾って」
『またまた〜。昨日は蝋人形ちゃんとデートだったんでしょ?どうだった、楽しかった?楽しませた?頑張っちゃった?』

うざい。
どうしてこいつに本性を明かしてしまったのかと、稔はここ数ヶ月の間に何回後悔したことだろう。
バラされたらバラされた時だ、と覚悟していたのに、バラさないかわりに寄生してきやがった。
稔はうんざりした気持ちで吐き捨てた。

「ああ、楽しかったよ。昨日の俺にできる範囲で精一杯頑張らせてもらったよ。永遠子ちゃんもすごく喜んでくれて、俺はなんて幸せなんだろうな、大満足だ」

どう聞いても「なげやり感」が漂う口調だったにも関わらず、クリスマスムードで脳内が沸いている高校生男子は、その言葉をだいぶ補完(むしろ創作)して解釈した。

以下脳内妄想〜〜
※この妄想はフィクションであって、実際の2人とは異なります。


「永遠子ちゃん……」
「六原さん……」
「体……大丈夫?できるだけ優しくしたつもりだったけど」
「……はい。…あの、六原さん……」
「何?」
「わたし、幸せです」
「俺も。よかった、永遠子ちゃんに喜んで貰えて」
「六原さん……大好き」
「永遠子ちゃん……!それはもっとしてほしいっていうおねだり?」
「え、やだ……恥ずかしい」
「そう……じゃあ、ご要望にお応えして精一杯頑張らせてもらおうかな」
「え、六原さん、まって、……」

妄想終了〜〜〜

『くっそー!なんだよ、うらやましいな!このむっつりスケベ!』
「はあ?」
『ちょっとそこんとこ詳しく聞かせてよ!どうよ、蝋人形ちゃんは』
「どうってなんだよ」
『可愛かった?』
「……」

昨日、ほんの数時間しか一緒にいられなかった己の恋人の姿を、稔は脳裏に思い浮かべた。

真っ白のフェイクファーのコートにふんわりしたオフホワイトのスカート。頭には白い毛糸の帽子。
くどいほど真っ白白な出で立ちで現れた永遠子を見て、こっ恥ずかしいことに本気で「雪の妖精?」とか思ってしまったことは口が裂けても言えない。
その日の永遠子は、手を繋げばぎゅっと握りかえしてきたり、時折小首をかしげて見上げてきたり、なんでそんなにと思うほど、いちいちいちいち可愛らしかったけれど、帰り際の可愛さは半端ではなかった。

永遠子を送るために最寄り駅に降り立った稔は、改札を出て人通りが比較的少ない出口付近に永遠子を連れて行くとプレゼントを差し出した。プレゼントの中身は……少女漫画趣味の永遠子が好きそうなものだった、とだけ告げておく。
プレゼントを受け取った永遠子は(顔は相変わらず無表情だったが)感極まった様子で、稔にぎゅっと抱きついてきた。
そう、永遠子の方から抱きついてきたのだ。
稔にとっては電撃が走ったようなショックだった。
いつもアクションを起こすのは稔の方からで、永遠子の方から稔に触れてくることは滅多にない。
その永遠子が自分から抱きついてきた!
「嬉しいです」
震えるようなかすかな声が聞こえてきた瞬間、稔は人目も憚らず思いっきり永遠子を抱きしめ返した。

帰したくない!
たとえ永遠子の父と兄に半殺し、もしくは地球の裏側へ強制輸送されることになろうとも、このままどこか誰もいないところへ連れて行って腕の中に閉じこめてしまいたい!

歴史上、さらにはこの現代においても、いったい何人の(バ)カップルたちが同じような思いを抱いたことだろう。
ただし、普通の(バ)カップルたちがこうしたやりとりをするのは、これからあと7、8時間は先の話なのだろうが。

12月24日13時45分。
場合によってこれから待ち合わせ、なんてカップルも大勢いる中、蝋人形と王子様は泣く泣くデートを終えたのであった。



『ちょっと〜、王子ぃ?聞いてんの?それとも昨日のこと思い出してにやけてんの?』
「ん、あぁ、悪い。ぼうっとしてた」
『なんだよなんだよ。そんなに可愛かったわけ?蝋人形ちゃんは」
「……可愛かったよ」
『ぅおぉ!なになに!もう一生放したくない!とか思っちゃったりしたわけ?』
「あぁ…」
『くっそぉ!独り身の男にのろけんなよなー』
「お前が言えって言ったんだろ」
『そうだったな。うんうん、分かった。「蝋人形と王子様はイブを甘く楽しく過ごしました 」、と。
それじゃ、俺、まだ他に調査が残ってるから。蝋人形ちゃんに「お大事に」って伝えといて、じゃ』

通話が切れた携帯をぼんやり眺めながら、稔は首をかしげてつぶやいた。

「”お大事に”?」

このときの会話が、かみ合っているようでまったくかみ合ってなかったことに2人が気づくのは、まだずっと先の話。




25日まで拍手に掲載していたおまけ小話。5回以上拍手してくださった方にだけ見られるようにしていました。
申告者は計5人。実際にはもう少しいらっしゃるでしょうか?ありがとうございました!
(最終日25日だけ3回目で見られるようにしていました)

電話の相手は言わずもがな、自称:情報屋、他称:腰巾着くんです。
痛すぎる妄想部分の台詞は、あえて色っぽくならないように心がけて書きました(笑)ギリギリ全年齢(笑)

1年目は惨敗に終わった王子様ですが、大人しく引き下がる男ではないので、
2年目3年目は何か策を弄してくれるのではと期待しています。
(来年、再来年までの作者の宿題ですね…頑張ります!/笑)