拍手小話「村人Aの証言」



「最近うちの弟がキモイんだけど」
「弟って、まさかあの爽やか王子のこと?」
「うちに弟は1人しかいない」
「いやいやいや、あの弟クンを”キモイ”とか言っちゃったら、うちのクラスの男子なんてどうなるのさ。
恥ずかしくて生きていけないよ?」
「騙されてる!あいつの爽やかさは偽物なの!猫よ猫!しかもあいつの場合、”かぶってる”なんて可愛いもんじゃない、”はりついてる”のよ、猫が!ベターと!剥がれ落ちないくらいぴったりと!中身はただの幼稚なそこらのガキよ」
「まあまあ。でもそんなの今に始まったことじゃないじゃない。今更キモイなんて……」
「違う!あいつの猫かぶりは別にキモくない。あれは気色悪いだけ。
そうじゃなくて、最近なんかキモイのよ、あいつ。なんか必要以上に機嫌が良くて、突然にやーとしたかと思ったら、噴き出したりして……。ついに猫かぶるだけじゃ飽きたらず、脳内で宇宙人でも飼いだしたのかもしれない」
「ふーん。それってあれじゃないの?」
「なによ、あれって」
「恋」
「……恋ーーーー!?
いやいやいや、ない!それはない!うちの弟に限って、それはまずない!」
「なんでよ。高校生でしょ?しかもあんなイケメンで、彼女がいない方が信じられないんだけど。好きな子の一人や二人……」
「いや、あの子は”この”あたしの弟だよ」
「君の恋愛不信症はちょっと異常だと思ってたけど、何、姉弟そろってなの?」
「子どもの頃のトラウマってのは怖いのよ……」
「でもさ、トラウマも消し飛んじゃうくらい衝撃的な出会いとか、そういうのがあったのかもしれないじゃん」
「うーん、やっぱり想像できない!あいつの守備範囲はおっそろしくピンポイントだから」
「ピンポイント?」
「そう。猫かぶりに騙されて近寄ってきた人間はアウト。猫なあいつじゃなくて、生身のあいつを見てくれる子じゃないとダメなの」
「えー。そんな子いっぱいいそうな気がするけどなぁ」
「甘い!あの子の猫かぶりは筋金入りよ!ここ10年くらい身内以外の人間の前で、生身のあいつを見たことは1度もないもの。あいつを落とそうと思ったら、まず猫をはがさせないといけないけど、それはまあ……。並な人間じゃ無理でしょうね」
「ふーん。でもさ、そこまで頑な子は、一度落ちたらすっごいハマりそうだよね」
「……やめて。想像すると気持ち悪い」
「でも、もうすでにその気持ち悪い現象がはじまってるかもしれないんでしょ?楽しみだね〜」
「他人事だと思ってー!」
「他人事だも〜ん」



 Aはまだ知らない。そんな”並じゃない”人間が王子のすぐ近くいることを。