ハロウィン小話

※現在の本編から近い未来の設定です。
大丈夫な方は以下へどうぞ↓


「トリック・オア・トリート!」

稔はいつものように自習室にやってきた永遠子を待ちかまえて、満面の笑みで手を差し出した。
永遠子は相変わらずの無表情でその手を凝視した。

「永遠子ちゃん、今日はハロウィンだよ。トリック・オア・トリートの意味しってる?
”お菓子はいらないから悪戯させて”って意味だよ?って訳で悪戯していい?」

稔は、永遠子と2人きりの時には滅多に見せない爽やか笑顔で、さらっと誠のように嘘を吐いた。
永遠子は稔を一瞬見上げると、鞄を漁って何かを取り出すと、そっと差し出されていた手にそれをのせた。

「え」
「お菓子です」

稔は手に載せられた一口チョコを恨めしそうに見つめると、はぁ〜と息を吐いて脱力した。

「なんで今日に限ってお菓子持ってるんだよ〜〜〜。いつも間食なんかしないくせに。デートで喫茶店入ってもコーヒーしか頼まないくせに!」
「今日はハロウィンだから持っていくように今朝兄から渡されました」
「げ、兄!」

稔は何度か対面したことのある永遠子の兄を思い浮かべて、条件反射で顔が引きつった。

「私は知らなかったのですが、兄によるとハロウィンというのは男子高校生にとって非常に楽しみな行事なのですね」
「え?」
「ハロウィンのお菓子はバレンタインのチョコレート以上に喜ばれるものだそうですね」
「いや…」
「もし、”お菓子より悪戯がいい”などと言う男子がいたら、その人はものすごい意地っ張りか、もしくは変態かのどちらかだと言われました」
「へ、変態!?」
「はい。意地っ張りな人は何を言っても聞かないので、女の子の方が気を利かせてお菓子をあげるべきだと諭されました」
「は、はあ…」
「それから、私の周りには間違っても変態なんかいるはずがないから、そのことは考えなくてもいいと言われました」
「…………」
「なので六原さん。意地を張らないでお菓子を受け取って下さい」
「……はい」

稔は、おとなしくお菓子を受け取るしかなかった。


+おまけ+
「ところで、お兄さんにもお菓子をあげたわけ?」
「いいえ。兄は”自分は変態だから悪戯がいい”と言って、出かける準備で慌ただしい私の髪をめちゃくちゃになでまわし、体中をくすぐられて死にそうな思いをしました。来年からは兄が望んだとしても悪戯よりもお菓子を取ろうと思います」
「…………んの
「?」
「あんのくそ兄ども〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」