大分未来の話になります。
未来の話は読みたくねえや、って人は回避願います!
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「娘が嫁いだ日」
「――さん」
ベッドにくつろいで天井をぼんやりと見つめていると、隣から甘く自分を呼ぶ声がした。
「ん?」 ぼんやりした瞳のまま目をやると愛すべき妻が微笑みをたたえて自分を見つめていた。 しかし、その笑顔が喜びや媚びといった甘やかな意味あいをもったものでないことを彼は知っていた。 彼女は基本的にいつも笑顔なのである。 結婚前からカウントすると、かれこれ30年近く側で見ていれば笑顔の種類を判別するのもお手の物である。 「いつまですねているんですか?」
「すねてない」 「すねてますよ!どんなにすねたってごねたって永遠子ちゃんが帰ってくるわけではないんですから、いい加減機嫌を直して下さい」 「もう一生帰って来ないような言い方をするな!結婚したって永遠子は永遠に俺の娘だ!」 「だったらすねないで下さいよ」 「だからすねてない!」 「じゃあなんで眉間にしわが寄ってるんですか?」 妻はそう言って細い指で彼の眉間にそっと触れた。
「いい子ですよ、稔くんは」
「……」 「それにしっかりけじめをつける信頼できる子です」 「……」 「あなただってそう思ったから結婚を許したんでしょう?」 「……」 「少なくとも、正式に交際を申し込んでもない未成年の後輩を確信犯的に孕ませて、勢いでそのまま婚姻届を出すような人よりはずっと信頼できると思いますけど?」 「……それは俺を非難しているのか?それとも後悔しているのか?」 彼は苦虫を噛みつぶしたような顔で言った。 妻はそんな夫にくすりと笑ってみせる。 「非難も後悔もしてませんよ、今更。するなら25年前にしてました」
彼はむすっとしたまま顔をそむけた。
妻は呆れたようにふうと小さく溜息を一つつくと、にっこり笑って夫の横に体をすべりこませ手を伸ばして相手の両頬を包み自分の方へ向かせた。 「永遠子ちゃんがいなくてそんなに淋しいですか?」
「……」 妻は笑みを消すと唇をとがらせた。 「私がいるのに?」 「――」 彼は妻の名前を呼んだ。 「お前……すねてるのか?」 「……」 彼はもう一度妻の名前を呼ぶと、彼女の体を両腕で抱き寄せた。
彼女は夫の胸に顔をうずめるとすねた口調で声をもらした。 「すねたくもなります。永遠子ちゃんの結婚の話が出てからずっと不機嫌で、私ともほとんど口をきいてくれなかったじゃないですか」
「そうか……それは悪かった」 「本当に悪いと思ってます?」 彼は体を反転させ妻をベッドに組み敷くと、その唇に優しく唇を落とした。
「これでいいか?」
夫の問いに、妻はふんわりと微笑むと 「足りません」と告げた。 夫はその言葉を合図に、わずかに目を細めると再び彼女に唇をかさねた。
さきほどとは比べようがないほど、深く、熱く――。 1月31日は「愛妻の日」。「I(アイ)31(さい)」だからとか。 と言うわけで1月31日の1日限定でweb拍手で公開していた永遠子両親の小話です。 確定してない未来話なので、もしかして今後細かい変更はあるかもしれませんが、この小話上の設定(永遠子と稔が結婚する頃)で書かせていただくと、永遠子母は45,6歳、永遠子父は47,8歳です。若いですね… 拍手コメントでは娘カップルよりこの夫婦の方がよっぽどバカップルだとお墨付きを頂いちゃいました(笑) (2010.06.06) |